ドレスシャツには、下着とオシャレ着の二面性がありますが、元をただせば下着です。
だから、下着にポケットが付いているのは不自然で、それはオシャレでもトラッドでもない・・・
というのが専門家やオシャレさんの大方の意見です。
しかし、私はその意見に待ったをかけたいのです!
まず、なぜ下着がオシャレ着になりえたのか?
それは、襟やカフスや前立てなどのドレスシャツの全てのディテールに意味があり、
それが機能美となって人々の心を打ったからです。
速く走るために作られた車を美しいと思うのと同じですね。
だからこそ何百年もの間、ほとんど形を変えず人々に愛され続けているわけです。
しかしながら、そんなドレスシャツとて、時代の波には揉まれます。
1930年代以降、戦争で物資が足りず、衣服にも影響が及びました。
そこで真っ先に排除されたのがウエストコート(ベスト)だったのです。
ウエストコートには腰や胸にのポケットがありますが、
そこに入れていた物を仕舞う場所に困り生まれたのが、ドレスシャツの胸ポケットです。
勘のいい皆さんならお気づきでしょうが、
この時点でドレスシャツの胸ポケットは意味のあるディテールになっているということです。
それから、100年近い年月が流れれば、それはもうトラッドです。
もちろん、ウエストコートを着なかったのは戦時中だけで、
ドレスシャツの胸ポケットはすぐに不必要になったのなら話は別ですが、
いまやスリーピースのスーツを着ている人の方が少数派ですよね。
つい先日、テレビを見ていたら、山下達郎さんがこんなことをおっしゃっていました。
「曲をアレンジするときに、現在は無限の方法があるけれど、
昔ながらのやり方だけでも通用しないし、最新の方法だけを駆使してもすぐに飽きられる。
要するにそのバランスが一番大事なんだよ。」
グッとくる事をおっしゃいます。
洋服も全く同じなんじゃないでしょうか?
単に古臭いものが良いわけじゃないし、最新のものがいいわけじゃない・・・。
それが、トラディショナルなメンズファッションの極意だと確信しました。
物資がなかった時代が生んだ機能美、ドレスシャツの胸ポケットは、
進化をしつつ 今なお時代の波に乗っています。
まさに、『RIDE ON TIME』。
今聞いてもカッコイイこの曲が1980年のリリースって信じられます?